まっくら森

水木しげるの「ゲゲゲの鬼太郎」「悪魔くん」について日々思うことを綴るブログ。

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5期鬼太郎SS 月を見ながら迷子になった 0 

このカテゴリーは、ゲゲゲの鬼太郎(第5期)のイメージで書いたSSを置いています。
相当妄想が入っておりますので、お許しいただける方だけご覧頂ければと思います。
もし、感想などありましたら、コメントか左のメールフォームから
メッセージを頂けると大変うれしいです。
よろしくお願いいたします。

【追記】
サイト化いたしました。
まっくら森(まとめ) → 
小説もこちらの方が若干読みやすくなっているかと思います。

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5期鬼太郎SS 月を見ながら迷子になった 1 


風のない、静かな夜だった。

うす藍色の空の天辺あたりには、仄かな星々とともにまばゆく光る三日月が浮かんでいる。その空をふちどるように、真っ黒な森の影がひっそりと枝を伸ばしていた。

森の一角には提灯に灯された無数の炎がゆらゆらと揺らめき、いくつもの声が重なり合ったざわめきと、時折上がる笑い声がさざなみのように響いてくる。

人里離れた森の中で不意に聞く楽しそうなざわめき声の正体といえば、大抵は害のない妖怪たちのいたずらだ。しかし、今晩ばかりはそうではないことがわかっていた。妖怪横丁の住人たちがゲゲゲの森に集まって、戦いの勝利を祝っているのだった。

まだ明るいうちに始まった酒盛りは、月が高く上る時分になっても終わりそうもなかった。戦いに参加した者も、帰りを待ちわびていた者も、それぞれの思いがあるのだろう。
ゲゲゲの森には、常ならぬ興奮が静かにたゆたっており、皆の心を浮き立たせていた。

---

そのざわめきを遠くに聞きながら、蒼坊主はひとり、森の中にぽつりと残された大岩の上に胡坐をかいて座り、月を眺めていた。時折、手にした杯の酒で、ちびりちびりと口を湿らす。
そうして、遠くない未来に再び起こるであろう大きな争いのこと、それに否応なく巻き込まれるだろう仲間たちのことを、考えるともなく考えていた。

静まりかえる森には、青白い月の光だけがしんしんと降り積もる。

近くには誰もいないように見えた。
しかし、蒼坊主は、ふいにわずかな気配を感じ、低く呼びかける。

「――こんなところに、どうしたい。ネコちゃん」

ぱきりと木の枝を踏み割る音がして、呼びかけられた少女が薄暗がりから姿を現した。
赤いフレアースカートに、白いブラウスとピンクのカーディガン。
少しレトロな服装の少女は、まだ年のころ12~3歳くらいの外見だ。

しかし、頬はほんのりと赤く染まり、大きな猫目はとろんとまぶたが落ちかかっていた。
これは誰かに酒でも勧められたかな、と蒼坊主は思う。

「酔っ払ってるのかい」

柔らかい声で聞くと、少女は緩慢に首を横にふって応える。
しかし、そのしぐさこそが答えで、首のすわりも怪しい様子からすれば、かなり酔っているに違いなかった。

「とりあえず、こっち来て座んな」

蒼坊主は立ち上がり、ゆるゆると歩みよる。しかし、足元も危うい様子の少女は声も立てない。
目の前に立ち、注意を促すようにその腕を取ると、

「……ん」

ようやく小さく返事をしてこちらを見上げた。
その顔を覗き込んだ蒼坊主は、茶色い瞳の奥に空虚な光を見る。

――あんなことがあったんじゃあ、無理もねえか。

蒼坊主は、ネコ娘には随分と堪えたであろう今回の出来事のことを思う。一心に想いを寄せる少年の身に起こったこと、そして、その帰りをただ待っていることしかできなかったことを。

頼りなげにたたずむ少女の背丈は蒼坊主の肩ほどもなく、腰の辺りに手を添えて岩の上に座らせてやると、その身体はふわりと軽かった。座る姿勢も安定しない少女を支えるようにして、自分も隣に腰掛ける。
いつもであれば、あれこれと話しかけてくる少女が、今日はしんと静かだった。

「なにか、話したいことでもあるのかい」

蒼坊主がそう聞くと、ネコ娘は再び首を横に振る。

「……ううん」

冷えるのか岩の上に膝を抱えて座り、そのままぼうっと空を見ていた。
眠ってしまいそうにも見えたが、蒼坊主はそれでもいいかと思う。

一人でいるのがつらいのだろう。かといって、一緒に戦えなかった仲間の話をじっと聞いているのもつらいのだろう。よそ者の自分の側が楽であれば、しばらく隣にいてやろうと考える。

そうしているうちに、ふいに、ぽすっと音を立てて右腕にもたれかかってくるものがあり、蒼坊主は、身じろぎもせずにそれを受け止めた。
猫の化生である少女の身体は、体温が高くて温かい。

二人はしばらく黙ったまま、きらきらと輝く月を見上げ、冷たい岩の上に座っていた。ひんやりと透き通った月の光が、一つに繋がった影を長く引き伸ばしていく。


5期鬼太郎SS 月を見ながら迷子になった 2 

「あたしね、迷子になっちゃったみたい」

ふいに、ぽわぽわとした声でネコ娘が言った。
半分眠っているような焦点の定まらない、それでいて柔らかな声だった。

「三日月がね、あんまりきれいだったから、空を見ながら歩いてたの。
そうしたらね、だんだん自分がどこにいるのか、わからなくなっちゃった」

一度言葉を切って、再び続ける。話し始めたら、止まらなくなったようだった。

「困ったなぁと思ったんだけど、どうしようもないから、そのまままっすぐ歩いてきたの。
そうしたらね、そこに蒼さんが座ってたの」

森の中は静まりかえり、他に生き物の気配もない。

「ねぇ、蒼さん」

「ん?なんだい」月を見上げたまま、蒼坊主が応える。

外気は肌寒く、右腕のあたりだけがネコ娘の発する熱でほんのりと温かい。
ネコ娘も、蒼坊主の腕に頭を預けて月を眺めているようだった。

「蒼さんは、また旅に出るんでしょ」

「ああ、そうだな」

「次は、どこに行くの?」

「ん?まだ決めてねぇが、北の方を見ておく必要があるかなぁ」

答えながら、そういえば最近寒いところに行ってなかったなと蒼坊主は思う。

「あたし、どこか遠くに行きたいなぁ。今度の旅に、ついていってもいいかなぁ」

ふいに、はるか遠くから響くような声で、ネコ娘が言った。
思いがけないその言葉に、蒼坊主は、横目でそっと少女の様子を伺う。
しかし、月を仰いだその顔には、どんな表情が浮かんでいるのか分からなかった。

「あたしも、北の方に行ってみたいな。雪が降っているの、あんまり見たことないんだ。
その後、海を越えて島にも渡ってみたい。冬の海は寒いけどきれいなんだろうな」

「ネコちゃん?」

「見たことのないものを、見てみたい。
知らない世界があるんだっていうことを、自分の目で確かめてみたい」

そこまで言うと、ネコ娘は少し黙り、あたりは再びしんとなる。
遠くで、提灯の炎がちらちらとはためいていた。

「……俺はかまわねぇけどよ」沈黙を破って、蒼坊主が静かな声で言う。
「妖怪の封印を見て回る旅だ。面白いことはなにもねえぞ」

「別に面白くなくったっていいよ。それとも、あたし役に立たないから、ついていっても迷惑かな」

さりげなくそう言った語尾が、かすれ声になる。それに気付かないふりをして、蒼坊主は答える。

「俺は、ネコちゃんが一緒に来てくれれば道にも迷わねえだろうし、心強いけどな」

「……ほんと?」

「ネコちゃんは、しっかりしてるからな。それに、旅は道連れだ。一人よりは二人の方が楽しいにきまってら。ただ、な――」

「ただ?」

「ネコちゃんがいなくなったら、寂しがる奴がいるだろ?もうしばらく横丁にいたらどうだい」

「そんなこと……」ぽつりとつぶやくようにネコ娘は続ける。
「あたしね、ずっとここで暮らしていくんだって思ってたんだ。あたしの居場所は、ここなんだって。みんなと一緒に、ここで暮らしていくんだって。でもね、最近なんだか苦しくって」

ネコ娘は下を向き、搾り出すようにそこまで言った。
小さな声は、泣き出すのを堪えているようにかすかに震えていた。

「どうしたらいいか、わからなくなってきちゃった」

蒼坊主は、少しためらってから、ネコ娘の方にゆっくりと左手を伸ばす。
そうして、
「――ネコちゃんは、いい子だな」
言いながら、くしゃくしゃとネコ娘の頭を撫でた。

茶色い髪の手触りは柔らかく、皮膚を通して仄かな温かさが伝わってくる。少女はまるで猫が甘えるようにして、その大きな手に頭をすりよせた。

「つらいときは、泣いてもいいんだぞ」

「……うん」

答えながら、ネコ娘はくすんと鼻をすすり上げた。その拍子に、大きな目からぽろりと大粒の涙がひとしずく流れ落ちる。ひとしずく流れてしまうと、その後は、次から次へととめどなく零れ落ちた。

零れ落ちるものを拭おうともせず、ネコ娘が早口で言う。

「あたしね、いつだって肝心なときに役に立たないんだ。力になりたいって思ってるのに。どうしてなんだろう。どうしてなんだろうね、蒼さん」

ぽたぽたと滴り落ちるしずくが、赤いスカートに点々と染みを作っていく。その両端を、ネコ娘の小さな白い手が、ぎゅっと握りしめていた。皺の寄ったスカートは、不思議なドレープを寄せて岩の上に広がっている。

5期鬼太郎SS 月を見ながら迷子になった 3 


その光景を見るともなく見ながら、蒼坊主は淡々とした声で答える。

「妖力の強い弱いなんてのを気にしてるなら、大した問題じゃねえと思うぜ。強い妖怪が一人で出来ることなんてのは高が知れてる。むしろ、力ってのは違う性質のものが補い合うことで強くなるんだ。
ネコちゃんは、妖力とは関係なしにいろんなことできるだろ。それは横丁にとって、重要な戦力になってるはずだぜ。それに、な――」

蒼坊主が言葉を切ると、ネコ娘は顔を上げた。
その拍子に、あご先まで伝わった涙がぽろりと滴り落ちて、蒼坊主の膝に染みを作る。

「自分のことを心底信じてくれる誰かがいるってのは心強いもんだ。最後の最後ってときには、そういう誰かの顔が自然に浮かんできて、力が湧いてくる。
だからな、ネコちゃんの気持ちは、いつかあいつが崖っぷちに立ったとき、きっと役に立つと思うぞ」

そこまで言うと、蒼坊主は同意を求めるようにネコ娘の顔をのぞき込んだ。
ネコ娘は涙でぐしゃぐしゃになった顔のまま、つられたように少しだけ笑みをこぼす。

「ふふ。蒼さんは、優しいね」

「そんなんじゃねぇよ、事実を言ったまでだ」

蒼坊主は、耳の先を赤くしてそっぽを向く。それを見上げながら、ネコ娘が言う。

「でもね、あたし、やっぱり蒼さんと一緒に行きたいな」
そのまま、一言づつ区切るようにして続ける。
「誰かに嫉妬したり、くよくよ悩んだり、そういうことに疲れちゃった。自分のことをね、嫌いになる前に、どこか遠くに行きたいんだ……」

はた、と沈黙が訪れる。

次の瞬間、蒼坊主は寄りかかられていた方の腕をするりと外した。そうして、その拍子に倒れ掛かってきた小さな身体を、右腕だけでそっと自分の懐に抱き寄せる。ふわりと空気がゆれる。腕と肩と触れ合う部分から体温が伝わり、ネコ娘は自分の身体が随分と冷えていたことに気がついた。

「なぁ、ネコちゃん」上の方から、少しくぐもった蒼坊主の声が降ってくる。
「本当にそれでいいのか。今出て行ったら、あとで後悔するんじゃねえのか」

「わかんない。わかんないけど、苦しいんだもん……」

蒼坊主の懐は、ほんわりと暖かかった。暖かくて、優しかった。

「俺にもよくわかんねえけどな、そういう気持ちも大事にしたらどうだ。みんなきれいな気持ちだけで生きてるんじゃねえぜ。嫉妬するのも悩むのも苦しいのも悪いことばっかりじゃねえ」

ネコ娘はうつむいて、唇をかんでいる。

「そういう気持ちがあることを知って、乗り越えて、それで段々強くなっていくもんだ。今、ネコちゃんは丁度その途中にいるんだ。あんまり心配するこたぁねえ」

「そうかなぁ、そうなのかなぁ。わかんないや」

口ではそう答えながら、ネコ娘は何かがすとんと腑に落ちるのを感じていた。
そうか、あたしは誰かに話を聞いてほしかったんだなぁと、少し駄々をこねて、それでも何度でも大丈夫だと慰めてほしかったんだなぁと思っていた。

見上げると、蒼坊主が耳の先を赤くしたまま一生懸命な顔をして話を続けていた。その様子だけで、寂しくてつらかった気持ちが急に満たされるような気がした。

「あたしに乗り越えられるかなぁ」

「ネコちゃんは、気持ちがまっすぐだから心配ねえって」

「じゃあ、乗り越えるまでに、どれくらいかかるかな」

少し困らせてみたくなってそう聞いてみると、案の定、蒼坊主は虚を突かれた表情になって、無精ひげが残る顎をぽりぽりと掻いた。

「どれくらいってのは……難しいなぁ」

「200年くらい?」
ネコ娘はいつか目玉おやじに言われたことを思い出しながら聞いてみる。

「そうだなぁ。200年もありゃあ十分だろうな」渡りに舟とばかりに蒼坊主が応じると、
「200年なんて、長すぎて待てないよ」
ネコ娘がそう言い、二人は顔を見合わせて少し笑った。

5期鬼太郎SS 月を見ながら迷子になった 4 


「でもね、あたし、いつかは横丁の外も見て回りたいな」

幾分かすっきりとした声で、ネコ娘が言った。月を見ながら、蒼坊主が答える。

「そうだなぁ。ネコちゃんが、もう少し大人になったら、だな。大人になって、それでもまだ俺と一緒に行きたいと思ったら、そのときは連れていってやるよ」

「あたし、もう子どもじゃないよ。何十年も生きてるもん」

ネコ娘は少しむきになって言う。それを蒼坊主は軽く笑う。

「そうやってむきになるのが、まだ子どもだって証拠だ。人間と妖怪じゃあ、時間の流れ方が違うことくらいわかってるだろ」

「じゃあ、いつになったら大人になるの」

「それは、俺にもわからねぇなあ」

そう話しながら、ネコ娘はもぐりこんだ懐の暖かさにとろんとした気分になる。さっきまでの寂しい気持ちが嘘のように、安心して眠たくなってくる。
自分には両親も兄弟もいないし、こんな風に誰かに甘えたこともない。けれど、お父さんかお兄さんがいたらこんな感じなのかなぁとぼんやりした頭で考える。
蒼坊主の懐は、大人の男の人の匂いがした。

「それじゃあ、約束にならないよ」

「そんなことねぇよ、ちゃんと約束だ。大人になったらな。ネコちゃんこそ、忘れんなよ」

「うん、わかった」

「酔っ払ってたから忘れちゃったとかは、なしだぜ」

「酔っ払ってなんか、ないもん」

「酔っ払ってないって言うのは、そもそも酔っ払いが言うセリフだせ」

「じゃあ、指きりしようか」

そう言って、ネコ娘は身体を起こすと蒼坊主に小指を見せる。
それこそ子どもの約束だという言葉を飲み込んで、蒼坊主は自分の無骨な指を少女の細い指に絡めた。

ふふふと笑って、ネコ娘がつないだ小指を振り回す。

その笑顔を見ながら、蒼坊主は弟分の少年のことを思った。
ネコ娘と違って、必ずしも外見どおりの子どもではない少年のことを。
いつも韜晦(とうかい)して心のうちを見せない少年が大事に守っているものを、ひょいとさらっていったとしたら、一体どんな顔をするんだろうか。
そんな考えが一瞬頭をかすめ、しかし、すぐにふり払う。

幽霊族の末裔として途方もない霊力を持ち、誰からも頼られる少年。
昼行灯を気取りながらも、何かが起これば身を挺して力を尽くし、いつでも痛々しいほどに公平であろうとする。それは、彼の父親が彼に求めるものであり、また、強大な力を持つ異端の存在を日常に受け入れるために、仲間たちが無意識に求めるものでもある。

その少年にもっとこちらを見てほしいと願うネコ娘の気持ちは、自分にない力を持つ者への憧れにすぎないのか、それとももっと深くて特別なものなのか。蒼坊主には判断がつかず、それはきっとネコ娘自身もそうなのだろうと思う。

強い磁力に惹かれて歩き回るうちに迷子になってしまった仔猫と、無邪気な仔猫に手を伸ばしあぐねている少年。しかし、少年には迷子になることさえ許されていない。

---

「くしゅんっ」

周囲の空気を震わせて、ネコ娘がくしゃみをした。

「ネコちゃん、寒いか?」

辺りに溶け込むような静かな声で、蒼坊主が聞く。

「ううん」

冷ややかな夜気は、寄せ合った身体と身体の隙間から少しずつ沁みこんできていた。冷たくなった手足の感覚が、身体の芯にじんわりと灯る熱があることを教えてくれる。
真夜中の森の中で小さくきらめく熱は頼りなくよるべなく、それでいてまぶしく、行く手を示す目印のようでもあった。

「もう少しだけ、こうしててもいい?」

ネコ娘は、小さな声でそうつぶやく。
蒼坊主は何も答えずに、大きな手でネコ娘の頭をくしゃりと撫でた。

三日月は目のくらむようなまばゆさを失って、西の空に傾き始めている。
空の高いところから降り注ぐぼんやりと柔らかい光が、森の中の二人を優しく照らし出していた。


(終わり)

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