まっくら森

水木しげるの「ゲゲゲの鬼太郎」「悪魔くん」について日々思うことを綴るブログ。

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4期キタネコSS 雨宿りの日0 

このカテゴリーは、ゲゲゲの鬼太郎(第4期)のイメージで書いたSSを置いています。
相当妄想が入っておりますので、お許しいただける方だけご覧頂ければと思います。
もし、感想などありましたら、コメントか左のメールフォームから
メッセージを頂けると大変うれしいです。
よろしくお願いいたします。

【追記】
サイト化いたしました。
まっくら森(まとめ) → 
小説もこちらの方が若干読みやすくなっているかと思います。
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4期キタネコSS 雨宿りの日1 

お昼を過ぎたころになって降りだしたのは、さらさらとした小ぬか雨だった。
そういえば、今日は朝からくもり空で、
ぴりりとした初冬の寒さのわりに空気が湿っていたことを思い出す。
――ああ、雨降りの日だったんだ……。
窓から身を乗り出すように空をうかがいながら、
どうして気付かなかったのだろうとねこ娘はため息をつく。

森のむこうには針葉樹の林がそびえ立ち、
そのはるか上を化けカラスが大きく旋回していた。
冬の空は白くあかるく、かすかにさみしく煙っていて、
気まぐれな雨が風に流されてちらちらと瞬く。

こんな霧雨の中では、傘をさしたって服はじっとり湿ってしまうに違いない。
ねこ娘は、ぬれたスカートが足に貼りつく
ぺとりとした感触を思い出して憂鬱になった。
それに、手ぶらできてしまったから、アパートまでは傘を借りる必要がある。
でも、この家にあるぼろぼろの傘が、大した雨よけになるとも思えな かった。

ぐるぐると思案する背中に、
「……もう帰るのかい、ねこ娘」
そう、声がかかる。

ふり返ると、壁によりかかって本を読んでいた鬼太郎が、
首をかしげてこちらを見ていた。
片ひざを身体にひきよせるように立て、ぺたりと床に座り込んでいる。
いつもとかわらない静かな佇まいに、穏やかな視線がやんわりと絡んだ。

「そうしようかと思ったんだけど、雨が」
ねこ娘がそう言いかけて外を見ると、鬼太郎も追うように窓の外を見やる。
「降り始めた?」
「うん。でもね、傘忘れちゃった」
「そう、傘ならあるけど、」

鬼太郎の視線が小屋の入り口に向かい、
ねこ娘はそこに立てかけられた赤い唐傘を見る。
いつ付喪神になってもおかしくないほど使い古されたそれは、
広げれば油紙がところどころ大きく破れおちていて、
雨を防ぐという本来の役割をあまり果たしそうもない代物だ。

鬼太郎が、言葉を続ける。
「でも、時間があるなら、雨やどりしていけば」
そう言われてしまえば、ねこ娘には大した用事もないのだった。

4期キタネコSS 雨宿りの日2 

砂かけ婆には昼すぎに戻ると声をかけてきたけれど、
行き先は伝えてあるし、雨が降っているのだから、
すこしくらい帰りが遅くても心配をかけることもないだろう。

「そんなに長く降りそうな雨でもないし」
外を見たまま鬼太郎がつぶやいた言葉に、ねこ娘は素直にうなずく。
「そうしようかなぁ……」

「じゃあ、もう一杯お茶を淹れるよ」
そう言いながら立ち上がった鬼太郎に、下の方から声がかかる。
「鬼太郎、わしの湯も足してくれんかの」
「はい、父さん」
鬼太郎が、柔らかい声で返事をする。

ちゃぶ台の上、お湯の張られた茶碗の中では、目玉おやじが風呂につかっていた。
ねこ娘はその正面に座り込み、部屋のなかをぐるりと見渡す。
部屋の片隅につくりつけられたかまどでは、
すでに十分熱せられたやかんがしゅんしゅんと軽い音をたてて湯気をはきだしていた。
鬼太郎が不器用な手つきでそろそろと急須にお湯を注いでゆくと、
たっぷりと熱湯を含んだお茶の葉がこうばしい香りを立てはじめる。
遠くで、仲間を呼んでいるのだろうか、カラスが高くするどく一声鳴いた。

「はい、ねこ娘」
「ありがとう、鬼太郎」
ことんとかたい音をたてて、湯飲みが二つ、ちゃぶ台に置かれる。
淹れたてのお茶は、猫舌には少し熱すぎた。
ねこ娘は、冷めるまでのあいだ、湯のみに手をかざすようにして、
その温かさと湯気の感触をたのしむことにする。

鬼太郎が、ささげ持つように慎重に、熱い熱いやかんを運んできた。
その細くくびれた注ぎ口から、とふとふとふという温かい音を立てて、
お湯が茶碗に注がれてゆく。
ちょうどよい頃合に満ちると、ねこ娘は古びた箸の一本で、
目玉おやじごとお湯をくるくるとかきまぜた。

「はぁ~、極楽じゃの~う」
深いため息をつきながら目玉おやじが風呂に沈み込むと、
静かな森の小屋に、ちゃぽんという小気味のいい水音が響きわたる。

穏やかな雨の午後、ゆるやかな時間。
「雨、止まないかなぁ」
思わずそうつぶやくと、読みかけの本を手にとりながら鬼太郎が答える。
「さあ、どうだろうね。空は明るいみたいだけど」
たしかに、空は明るいみたいだけれど、雨はまだ止みそうもなかった。

4期キタネコSS 雨宿りの日3 

そんな風に話をしていたと思っていたのに、ふと気付いたときには、
ねこ娘はふんわりと温かい空気に包まれて夢と現のはざまをたゆたっていた。
守られているような、閉じこめられているような、ふしぎな気配。
かすかに懐かしい匂いがしていた。

そうやって、あいまいな場所にぼうっとたたずんでいるうちに、
だんだんと自分がまどろんでいることがわかってくる。
けれど、頭がうまくはたらかない。
遠くから聞こえるざああざああと水が流れおちるような音がゆるく鼓膜をふるわせて、
なんとも言えず気持ちがよかった。
もうすこし、もうすこしだけこのままでいたいと思う。

思いながらも、心のどこかでは、うたたねなんてしたら風邪をひいちゃうでしょう
という気持ちがむくむくと首をもたげてくる。
その葛藤がゆっくりと意識を押し上げてゆき、やがてくっきりと目が覚めると、
ねこ娘はちゃぶ台に上半身を伏せたまま眠りこんでいたのだった。

とたとた、とたん、とたとたんと、弾むような雨粒が絶え間なく屋根を打っている。
いやに暖かいと思って見ると、肩からすっぽりと布団がかぶせられていた。
木の葉の模様の掛け布団からは、少しだけ鬼太郎のにおいがする。

妙な時間に眠ってしまったせいか、頭も身体も重くて気だるかった。
部屋の中は奇妙なほどうす暗くて、物の輪郭がぼんやりとかすんでいた。
不自由な視界の中では、見慣れたはずのかべも天井もよそよそしく感じられて、
ねこ娘はどことなく心細さを覚える。

ちゃぶ台の上は、がらんとしていて目玉おやじの姿はなかった。
――どこに行っちゃったんだろう……。
置き去りにされたような寂しさがじわじわと込み上げてきて、
ねこ娘は慌ててふりかえる。

その途端、はだしの足先に温かいものが触れた。
「にゃっ」
「んっ」
ねこ娘が小さな声を上げたのと、
その足に背中をつつかれた鬼太郎が低いうめき声を上げたのは、ほとんど同時だった。

肩にかぶせられた布団を辿っていくと、反対の端から茶色い髪の毛が覗いている。
鬼太郎は、ねこ娘のちょうど真後ろに背を向けて横になっていた。
それを知れば、布団がずいぶん暖かかったのは、
鬼太郎も一緒にくるまっていたせいだったとわかる。

「鬼太郎?」
声をかけても、返事がない。
ねこ娘は、床に敷かれたむしろの上に腹ばいになり、鬼太郎の背中ににじりよる。
そうして、もう一度、耳のすぐ後ろで声をかけた。

4期キタネコSS 雨宿りの日4 

「ね、鬼太郎。寝ちゃったの?」
「なに……」

面倒くさそうな声があがり、それからゆっくりと鬼太郎がこちらを向く。
寝起きらしく、髪の毛はぼさぼさで目は半分も明いてなかった。
そして、「起きたの、ねこ娘」と、気だるそうな声で言う。
聞きなれた声に、ねこ娘の気持ちがほっとゆるんだ。

「うん。ねぇ、おやじさんは?」

「父さんは、たんすの上で寝てるよ。風が通らなくて暖かいって」

見上げると、確かにたんすの上にいつもの茶碗が乗っていた。
なあんだ、とねこ娘は安堵のため息をもらす。

「みんながどこか行っちゃったかと思って、心配しちゃった」

それを聞くと、ねぼけ眼のまま、鬼太郎が可笑しそうにする。

「こんな雨の中、行くところなんてないだろう。
ねこ娘も寝ちゃったし、することもないから、みんなで昼寝してただけさ」

そういえば、前にもこんなことがあった。
昼寝から醒めた遅い午後、日がかげった部屋の中で、妙に心細い気持ちになったことが。
でも、誰かの声を聞けば、すぐに安心できる。
一人じゃないってわかれば。

安心ついでに、ねこ娘はころっと横になる。そうしてつぶやく。
「あたしね、今日みたいな日がすきだなぁ」
「今日みたいな日って?」
「なんでもない日。特別な日じゃなくて、なあんにもなくて、のんびりできる日」
「ふーん」
「知ってる?そういうのを、『なんでもない日おめでとう!』って言うのよ」
「なんだい、それは」
「前にね、読んだ本に書いてあったの」

「へぇ、ねこ娘も本なんて読むんだ」鬼太郎が、からかい口調で言う。
「し、失礼ね。本くらい読むわよ」
ねこ娘は、心外だというようにつんと横を向く。
「もしかして、前に街で拾った絵本のこと?」
「……そうだけど」
「じゃあ、不思議の国のアリスか」
「うん」

紫の髪をゆらして、うれしそうにうなずく。

「ウサギが歌うやつだろう?」
「そう。黒い帽子をかぶったウサギが丸い時計を持って歌うやつ」

話しながら、鬼太郎は、窓のほうに目をこらしている。
窓には、雨よけのために戸板が立てられていた
――そのせいで部屋がうす暗かったのだとねこ娘は気付く――
が、空気が入るように少しだけ隙間が空いていた。
そこから、わずかに外の様子が見える。

「ね、鬼太郎。聞いてる?」
「聞いてるよ。ほら、外が明るくなってきた」
「あ、ほんとだ」

ねこ娘も、鬼太郎の肩越しに外をのぞく。
「でも、まだ少し降ってるね」
雨はもうまばらになっていたが、眠っている間にだいぶ降ったのだろう、
森の木々はぐっしょりと水滴を含み、葉っぱの先までずぶ濡れになっていた。
雨にすっかり洗い流された空気が、少し青くさくて清々しい緑の匂いを運んでくる。

「こんなにあったかいと、布団から出たくないね」
 ねこ娘がそういうと、鬼太郎が応える。
「かまどに、火を入れてこようか?」
「ううん。まだ帰れないし、このままでいいよ」
「……そうだね」

4期キタネコSS 雨宿りの日5 

布団の中は暖かくて、その中で二人、くすくすと笑いあう。

――ずっとずっと、なんでもない日だったらいいのにね。

そう思ったけど、言えなかった。
そんなわけにいかないことを、ねこ娘は知っていたから。

もし、世界が雨降る森のように平和だったなら、
ずっとこうして笑いあって、暖かいところでのんびりしていられる。
でも、現実はちがう。
雨が止んだら、また鬼太郎に助けを求める知らせが届くだろう。
鬼太郎は、求められるままに何度でもでかけてゆくだろう。

争いになれば、ひどく傷つくこともある。
そんな傷はときにじわじわと心を苛んで、
奥深いところにある大切なものさえ損なってゆくかもしれない。
それが、いやになったわけでも、怖くなったわけでもない。
自分たちが選んだ道なんだって、わかっている。

それでも。

――そんなとき、あたしに一体何ができるだろう……。

ふいに、冷たくて細い指が伸びてきて、ねこ娘の頬にそっと触れた。
そのまま、したくちびるをゆっくりとかすめるように撫ぜられる。
ひんやりした感触にふいをつかれ、ねこ娘の背筋はぞわぞわと軽くあわだった。
目を上げると、うすく笑った鬼太郎と視線が絡む。

「どうしたの、ねこ娘。ヘンな顔して」

言いながら鬼太郎は、やわらかな頬をゆるくつまんで横にひっぱった。
ひっぱられると、ねこ娘の頬はむにゅりとゆがんで少しだけ伸びる。

「へ、ヘンな顔なんて、してないもん。はなしてよぅ」

なぜか少しどぎまぎしながら言い返すと、鬼太郎が優しい声で聞いてくる。

「なにか考えごとかい?」

それには答えずに、ねこ娘はお返しとばかりに鬼太郎の頬に手を伸ばした。

「鬼太郎の顔だって、むしろの跡がついてるよー」

つめたい頬には、横になっていたときの名残で、赤いだんだんの跡がうすく残っていた。
それを、指先でそっとなぞり返す。

「あ、雨が止むよ」

鬼太郎の言葉に顔を上げたねこ娘は、雨があがるまさにその瞬間を見た気がした。

雲間から差しはじめたあざやかな日の光が、
窓枠についた無数の水滴に反射して、きらきらと輝く。

「きれいだね……」

世界の美しさがまぶしかった。
雨やどりの終わりを惜しむような気持ちで、ねこ娘は小さくそうつぶやいた。

(終わり)

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