まっくら森

水木しげるの「ゲゲゲの鬼太郎」「悪魔くん」について日々思うことを綴るブログ。

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キタネコSS-1 やさしい気持ち 1 

あんなこと、言いたくなかった。
一番知られたくなかったこと。
ねこ娘はため息をついた。何度目のため息だろう。
インドから来たという妖怪ラクシャサの襲撃を受けた日から、3日程が過ぎていた。

妖怪アパートの一室。開け放たれた窓際で、膝を抱えて壁にもたれかかる。
閉め切ったカーテンの隙間からさわさわと吹いてくる春の風がねこ娘の頬をなでていく。
ねこ娘は、ラクシャサの妖術に操られて鬼太郎を襲ったことを何度も思い出していた。

わたしのこと、もっとすきになってよ・・・。

心の奥にしまっておいた感情。
言葉にするまで気が付かなかったけど、あれは独占欲だ。
側にいられるだけでしあわせだと思ってた。その奥の気持ちに気付かないふりをしてた。
鬼太郎の特別になりたいなんて、そんなわがままは言いたくなかった
なのに、本当はそう思ってなかったんだ・・・。
醜い自分を知りたくなかったし、知られたくなかったのに。

事件が解決した後、鬼太郎は優しかった。
まるで何もなかったようないつも通りの笑顔と態度。
森への帰り道、「ありがとう。ねこ娘のおかげで助かったよ。」と
鬼太郎はいつもの優しい穏やかな声で言った。
いつもなら、役に立てたうれしさで有頂天になるはずの言葉も
今回ばかりはねこ娘を居心地の悪い落ち着かない気持ちにさせた。
「そんなことないよ・・・。」と俯いて返すのが精一杯だった。
まっすぐ顔を見ることさえできなかった。

どんな顔をして会えばいいんだろう・・・。
毎日のように通っていた森の中の家に、ねこ娘はもう3日も足を向けられずにいた。
「えいっ。」
自分に小さくかけ声をかけて立ち上がる。
ぼんやりしていると、性懲りもなく鬼太郎に会いたい気持ちで胸が痛くなる。
そんな自分と向き合っているのもつらかった。
こんなときは掃除でもしよう、とふいにねこ娘は思った。
それから、ご飯をたくさん作って、アパートのみんなにおすそ分けしよう。

ねこ娘は、最近自分で縫ったお気に入りのエプロンをきゅっとしめて掃除を始めた。
エプロンは、すみれ色のガーゼ地で、裾には幅の狭いフリルを縫い付けてある。
おなかの辺りにひとつだけつけたポケットには、自分の顔を小さくアップリケでつけた。
ねこ娘は、お気に入りのエプロンをつけただけで、
少し気持ちが明るくなる自分の単純さが有難かった。

窓を大きく開け、家具に薄くつもった埃をハタキで落とし、水拭きする。
床を掃き清め、固く絞った雑巾で畳を一目ずつ丁寧に拭き上げると、部屋は大分すっきりした。
窓から吹き込む風が部屋の中の空気を洗い流していく。
掃除ってどうして気持ちをすっきりさせるんだろう。
こうやって暮らしていけるだけでも十分しあわせなのにね、とねこ娘は言葉にせずにつぶやく。
ねこ娘には、物心ついたころから親がいない。
もう思い出すことも少ないけれど、ここに流れ着くまでには随分とひどい暮らしも経験してきた。
住むところがなくてお寺の軒下で雨宿りした日もあるし、食べるものがなかった日もある。
それに比べたら、今の暮らしは穏やかそのものだった。

仕上げに玄関を箒で掃きながら、そうだ、廊下も掃除しておこうとドアを開けた。
そして、はっとする。
カラン、コロンと下駄の音をさせながら階段を上がってくる足音がした。
ねこ娘はドアノブに手をかけたまま、心臓がきゅーっと縮むような感覚を覚えた。
甘い苦痛がねこ娘の小さな体をぞわぞわとかけ上っていく。
胸が苦しくて息ができない。振り返ることもできない。
ほんの一瞬の間に、体の奥の方で生温かく湿ったなんともいえない感覚が目覚めるのを感じる。
カラン、コロン。
下駄の音は、ねこ娘のすぐ後ろでとまる。声がする。ずっと聞きたかった声だ。
「やあ、ねこ娘。掃除かい?」
その言葉にはじかれたように振り返ると、そこには彼女の幼馴染が立っていた。
ほんの少し見上げるくらいの背丈。いつもの群青色の学童服。
不ぞろいな髪の間からのぞく彼の大きな目は、まぶしそうに細められて笑っているように見えた。
「鬼太郎・・・。」
その目に捕らえられると、両足の間、おなかの奥のほうが、とくんっと音をたてる。
細められた鬼太郎の目は何もかも見透かすように、じっとねこ娘を捕らえてはなさなかった。
目が合ったあと、その視線が頬を通り過ぎ、首筋に降りていくのがわかる。
鬼太郎は、何も言わず、ただねこ娘を見ていた。
心臓の音が聞こえてしまうと思うくらい、鼓動が高鳴っている。
ねこ娘は、そんな自分を見られることが恥ずかしくて泣きたい気分になった。

ようやく、はぁ、と息を吐くとそれは想像よりもずっと熱っぽいもので、
耐えられなくなったねこ娘は、身を翻してドアの中にかけこんだ。
鬼太郎が自分に付いて部屋の中に入ってくる気配がする。
それでも、鬼太郎の視線から逃れると、少し気持ちが落ち着いてほっとした。
掃除をしたての部屋の窓を半分閉め、ねこ娘はちゃぶ台の前に座布団を敷く。
「お茶入れるね。温かいのでいい?」
そう台所に歩きかけると、鬼太郎の声がかかる。
「お茶はいいよ。ねこ娘は今忙しいの?」
鬼太郎は、玄関から一歩入った板の間に立ったままこちらを見ていた。
その場で立ち止まり、ねこ娘は鬼太郎の方を見る。
何だろう。何を知りたいんだろう。
「もう掃除は終わったところだから、忙しくないよ・・・。」
そう答えると、鬼太郎は表情を変えず、いつもと同じあの不思議な目のまま言う。
「じゃあちょっと出かけよう。行きたいところがあるんだ。」
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キタネコSS-1 やさしい気持ち 2 

ねこ娘は断ることができなかった。
どんな顔をしたらいいかわからなかったけど、側にいられるだけでうれしかった。
鬼太郎はいつもの無表情だったけど、ねこ娘には気配から機嫌が悪くないことがわかる。
なんだろう。なにがあったんだろう。
どうしても口数が少なくなる。早足で歩きながら、ねこ娘は自分の足元ばかりを見ていた。
「さっきのエプロンはどうしたの?」
突然、鬼太郎が言った。ちょうど、ゲゲゲの森の手前で、もののけ道に入るところだった。
「あ。縫ったの。おばばに教わって。」
急に話しかけられたねこ娘は驚いて早口で答える。声が上ずる。恥ずかしい。
「そう。似合っていたね。」
いつもと変わらない穏やかな声で言った鬼太郎は正面を向いたままで、
一歩遅れて歩いていたねこ娘からはどんな顔をしているか見えなかった。
ねこ娘はおなかの中心から熱がかーっと噴き出してきて、顔が真っ赤になるのがわかる。
「あ、ありがとう・・・。」
「もののけ道に入るよ。」
そう言いながら鬼太郎は、なにげないしぐさでねこ娘の左手を掴んだ
鬼太郎の手はいつもどおりひんやりと乾いていた。

もののけ道を抜けると、そこは小さな池のほとりだった。
水面が日の光を反射して虹色に煙っているように見える。
人間の住む世界なのか、妖怪の住む世界なのか、どちらともつかない
雰囲気でよくわからない。
「ちょうど、はざまにある池だよ。」
池を眺めているねこ娘の背中に、鬼太郎が言う。
ねこ娘は緊張に耐えかねて、もののけ道を出るときに鬼太郎の手をそっと離していた。
本当は、もののけ道の道中も手をつなぐのは恥ずかしかったけど、
危ない妖怪もいるからだめだよ、と鬼太郎は手を離すのを許さなかった。
「きれいだねぇ・・・。」
ねこ娘はなんだか少し切ない気分になって言った。
美しいものを見ると、切ない気持ちになるのはなぜだろう。

「ちょっと行ってくるから、そこにいて。遠くには行かないでね。」
鬼太郎は、そう言うとねこ娘に何か言う隙も与えず、どこかへ行ってしまった。
ねこ娘には鬼太郎が何を考えているかわからなかったけど、あまり気にならなかった。
きらきらと虹色に煙る水面を眺めながら、池のほとりに座っていた。
気恥ずかしくてあまり話もできなかったけど、ねこ娘はしあわせだった。
そうだ、わたしは鬼太郎の側にいられればしあわせなんだと思った。
しあわせはやさしい気持ちでできてる。
そのやさしい気持ちだけでもう十分だと思った。
これ以上、なにか欲しがることなんてない。
半妖の自分が鬼太郎の助けになることは多くないし、
彼の「特別」になれるようなものは何もない。
でも、彼から何かもらおうとはもう思わない。
彼と一緒にいることで、自分の心の中からこんなにもやさしい気持ちが出てくるなら
それ以上望むものはなにもないんだ・・・。
どこからかねこ娘にはそんな考えが浮かんで、ふふふっと微笑んだ。

「ねこ娘。」
いつの間にか戻ってきた鬼太郎がすぐ側まで来ていた。
振り返ると、両手に少し溶けかけたソフトクリームを持っている。
急いで来たようで息が切れていたが、顔は笑っていた。
「この間、ケーキ食べそびれちゃっただろう?」
鬼太郎が差し出したソフトクリームをびっくりした顔で受け取った後、自然に笑顔になる。
「ありがとう・・・。」
そう言って、笑顔のまま鬼太郎の顔を見上げると、彼もうれしそうに笑う。
そうか・・・。この間のあんなことになっちゃたから、今日はふたりだけでデートなんだ・・・。
鬼太郎はやさしい。誰にでも。でも、それでもうれしい。

キタネコSS-1 やさしい気持ち 3 

「ね。このソフトクリームどうしたの?こんなところにお店なんてあるの?」
口に含むと、ほんのり甘い。おいしい。
池のへりに二人で並んで座り、ソフトクリームを食べる。
ねこ娘の心のわだかまりは、もう解けていた。
「この池の周りにはたくさんもののけ道があるんだ。」
鬼太郎は、二人で抜けてきたもののけ道の少し脇を指差す。
「あの辺から始まるもののけ道は、人間の街につながってるんだ。そこで買ってきたんだよ。」
甘いソフトクリームはあっという間になくなってしまう。
あらかたクリームをなめてしまったコーンを、ぱりぱりっとかじると
鬼太郎はもうコーンのしっぽを口に入れるところだった。
「そうなんだ~。すごいね。よくみつけたねぇ。」
鬼太郎はいろいろなところへ行くから、もののけ道に詳しい。
どんな妖怪がいるかわからないもののけ道は危険も多いので、
ねこ娘は普段人間の街に行くときにも通らないようにしていた。
「そういえば、この間のケーキは、ねずみが食べちゃったんだよね!」
ねこ娘が鬼太郎と親父さんのために持っていったケーキは、
結局ねずみ男に食べられちゃったのだ。
それを思い出すとにわかに頭にくる。
「ねずみって、サイッテーだよね!」
ねこ娘は、ねずみ男のことになると、いつもなんだかムキになってしまう。
「すーぐ裏切るし、食べ物でもなんでも勝手に持ってっちゃうし。いいとこないよ!」
横で鬼太郎がふふふと笑う気配がする。
ねこ娘がねずみ男の悪口を言うと、鬼太郎はいつもおかしそうにする
「なんで・・・。」
そう言いかけたねこ娘の小さなあご先が急に持ち上げられる。

鬼太郎の左手が、すばやくねこ娘のあご先を持ち上げて上を向かせていた。
そして、そのまま顔を近づけると、ねこ娘の小さな唇に唇を重ねる
あまりに突然のことで、ねこ娘は目を見開いたままだった。
視界が、さらさらとした茶色い髪の毛でふさがれる。
唇は、手と同じで乾いていて、冷たかった。
池の水面を風が渡る音だけが聞こえる。
鬼太郎は、顔の角度を少し変えてもう一度くちづける。
ねこ娘は不思議と冷静だった。
鬼太郎の唇からは、ソフトクリームの甘い味がした。

「すきだよ・・・。」
鬼太郎は、唇を離すと、下を向いたままつぶやくように言った。
「え・・・。」
「ね。触ってもいい?」
どこにと聞く間もなく、鬼太郎はねこ娘の背中に手を回して抱き寄せる。
思っていたよりも強い力だった。息が苦しいくらい抱きしめられる。
幽霊族の鬼太郎は体温が低い。
それなのに、ねこ娘の背中の、鬼太郎に掴まれた部分だけがとても熱く感じられる。
ねこ娘は自分の体が熱を発しているのだと思った。心臓がどきどきと脈打つ。
「苦しいよ・・・。」
ようやく一言つぶやく。鬼太郎の腕の力が少し緩む。
でも、離してほしいとは思ってなかった。
ひんやりしているけど、気持ちいい。
ずっとこうしていたい。くっついていたい・・・。
抱き寄せた姿勢のまま、ねこ娘の白い首筋に鬼太郎が頬を寄せる。
「ねこ娘は、いいにおいがするね。」
「・・・そ、そう?」
「うん。ほっとするよ・・・。」
鬼太郎の右手がねこ娘の左手を探り、手首を掴む。
そして、手首を引いて体を少し離すと、もう一度くちづけをした。
さっきよりも深いくちづけで、くちづけた後にやさしく吸われる。
ぴちゃりと音がして、唇の内側の濡れた部分が触れ合う。
その音を聞くと、頭の芯がぼぅっとしていくのがわかった。
身体の力が抜けたねこ娘がくちびるを少し緩ませると、
そこから熱い吐息が鬼太郎のくちびるに吸い込まれていく。
ねこ娘は、体の奥深いところに、熱のようなものがあるのをみつけた
その熱は、小さいけれども鋭くてねこ娘の気持ちを激しく揺さぶる。
はなれぎわに鬼太郎の口から舌が出て、ねこ娘の唇を舐めた。
ひゃっ、とねこ娘の背が逆立ったが、口に出すことはできなかった。
自分の顔が真っ赤になっているのがわかった。

「ねこ娘は甘いね。」
少し身体を離した鬼太郎が、いつもの目で覗き込むように言う。
目の中に自分の姿が写る。
いつもよりも少し熱っぽい、でも、いつものやさしい声だ。
「そ、ソフトクリームの味だよ。」
言ってから、もう少し気の利いたことは言えなかったのかと思う。
鬼太郎の右手がねこ娘の左手を、指の間を、なぞるように優しくなでる。
繰り返される優しいけれど執拗な愛撫に身体の別のところが熱くなり
なにかいけないことをされているような気がする。
自分の体が自分のものではないようにふわふわする。
「き、きたろぅ?」
伺うように聞くと、もう一度やさしく抱きしめられた。
「ねこ娘のこと、すきだよ・・・。」
鬼太郎は、ねこ娘を抱きしめたまま、耳元でそう言った。
「ねこ娘はよくわかってないみたいだけどね。」
ねこ娘は鬼太郎がなにを言っているのか、よくわからなかった。
本当は、ねこ娘のすきと鬼太郎のすきは似ていても違うものだったけ
そして、鬼太郎はそのことに気付いていたけど、ねこ娘にはそれはわからなかった。
「わたしも鬼太郎のことすきよ・・・。」
小さな声で言い返すので精一杯だった。

キタネコSS-1 やさしい気持ち 4 

しばらくそうしていた後、ふいに鬼太郎が言った。
「ねぇ、ねこ娘・・・。」
「なに?」
「ねこ娘は、ずっとぼくの側にいてくれるのかい・・・?」
ねこ娘は鬼太郎がどんな顔をしているのか見たかったが、
抱きしめられていたので身動きができなかった。
「ずっと、いるよ。側に。」
自然に口からそう言葉が出た。
「本当に?」
「・・・うん。」
そう返した途端、軽いめまいにおそわれる。
ねこ娘は、鬼太郎に両肩を押されて後ろに押し倒されたのだった。
仰向けになって見る空は青く、ところどころ雲がちぎれてちらばっていた。
真上から、鬼太郎が覗き込んでいる。さっきまでと空気が違った。
ねこ娘は、急に背中がぞくっとするのを感じた。
強く掴まれた肩が痛い。
「ねこ娘・・・。ぼくは君が思っているより恐ろしい妖怪かもしれないよ。」
そう言った鬼太郎の目の中からは、何も読み取れなかった。
ただ、ぽっかりと底のない暗い淵が広がっていて、
覗き込む者を引きずり込もうとしているようにも見えた。
「自分で自分をコントロールできないときすらあるんだ・・・。」
ねこ娘は大きな怪物に捕らわれてしまったような恐怖を覚えた。
淵から現れた邪悪なものがねこ娘を捕らえて引きずりこもうとしているようだ。
その邪悪なものは、大きな口をぽっかりと開ける。
口の中は一面真っ赤な血の色に染まっている。
上下に生えている鋭く尖った牙だけが残忍に白く光る。
のどの奥には、すべてを飲み込む虚無のような何もない暗闇が広がっている。
身動きできないねこ娘はあっという間にその口に飲み込まれる。
鋭い牙がねこ娘の体を噛み砕き、切り裂く。
熱い、熱い、痛い、熱い、闇に飲み込まれてしまう、怖い。
それは、野生の動物が天敵に襲われる恐怖に似ていた。
とっさに体が強張る。
その瞬間に、ねこ娘は、自分を覗き込む鬼太郎の体もかすかに強張ったのを感じた。
鬼太郎の表情は変わらない。
でも、ねこ娘には、鬼太郎も怖がっているように見えた。
何を怖がっているかはわからない、でも・・・。
「怖くなんてないよ・・・。」
言いながら、自分の体の力が抜けていくのを感じた。
目の淵に涙が浮かんだのがわかったが、口の端からは自然に笑みがこぼれた。
鬼太郎が目を大きく見開く。
「ぼくは、化け物だよ・・・。」
ねこ娘は、手をのばして鬼太郎の頬に触れた。つめたい。
「妖怪も人間も殺すことができるんだよ。・・・こわくないの?」
「こわくないよ・・・。少しも。」
本当に少しもこわくなかった。
彼が何であろうとかまわない。
わたしはそうできる限りずっと彼の側にいるんだと思った。
そして、いつかあの邪悪な虚無に飲み込まれることがあってもかまわないと思った。
「だいすき・・・。」
おおいかぶさったまま、鬼太郎の目はただねこ娘を映していた。
あの深く暗い淵は姿を消していた。
ねこ娘はそのまぶたにくちづけたいと思った。
「ね。きたろぅ・・・。」
自分の声が思ったよりもずっと甘いことに驚く。
自分じゃないみたいだ。こんな甘い声で誘うなんて。
右手で鬼太郎の袖を引くと、鬼太郎はなに?というように顔を近づけてくる。
ねこ娘はそこで考えを変えて、近づいてくる顔に顔を寄せて、唇にくちづけた。

「約束していいの?」
唇を離すと、鬼太郎が言った。遠くから響くような声だ。
「僕は君をどこにもやらないよ・・・。それでもいいの。」
ねこ娘は、また、その意味がよくわからなかった。
「いいよ・・・。他に行くところなんてないもん。」
そう答えると、鬼太郎は少し悲しそうな顔をした。
「ごめんね。ねこ娘・・・。」
そして、そのまま黙ってねこ娘の横に寝転がった。

「ねぇ。」
「なに?」
「少し眠いね・・・。」
そういうと鬼太郎はねこ娘を背中から抱えるように抱きしめる。
ねこ娘の体はすっかり鬼太郎に包まれている格好になった。
ねこ娘の首の下には、鬼太郎の腕が差し込まれている。
ちょうど枕にするように。
「そうだね。ちょっと眠いね・・・。」
ねこ娘は眠くなかったけど、かまわなかった。
鬼太郎の腕に顔をもたせかける。だいすきなにおいがする。
鬼太郎は、甘えるようにねこ娘の首筋に顔をうずめた。
その感触がうれしく、ずっとこうしていたいと思った。

眠ってしまう直前に、鬼太郎の声を聞いたような気がした。
寂しくて、少し苦しそうな声だった。
鬼太郎。だいすき。ずっと側にいるから。
たまにはわたしに甘えたりしてね。
気が向いたときに、ねこのように可愛がってくれればいいよ。
わたしはなにもいらない。
ほんとうは、永遠に側にいることなんてできないのは知ってる。
それでもいいの。いつか失くすことを恐れたりしない。

日暮れ前に目が覚めると、鬼太郎は眠ったねこ娘を膝にもたせ掛けて池を見ていた。
「起きたの?」
という鬼太郎は少し照れた顔だったけど、いつもと同じ。
ねこ娘は、どこまでが夢でどこまでが本当に起こったことかよくわからなくなった。
でも、自分の中の気持ちは変わらないままで、それならいいと思った

そして、二人で手をつないでもののけ道を帰った。
鬼太郎の手は相変わらず冷たくて、優しかった。

終わり

キタネコSS-1 やさしい気持ち 5 

あとがき的なメモです。
4期の鬼太郎とねこ娘をベースにしてます。

もののけ道は、百鬼夜行抄@今市子に出てくるもののけの通り道を拝借しました。
※※
読んで明らかですが、ラクシャサ後日譚。
ソフトクリームはどこから出てきたのか、という疑問に対する自分なりのアンサーです。はは。
ラクシャサの回は何回見ても切ないです。
※※※
リリカルすぎてすみません。
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